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【Dead or Alive ?】
W Beyond Good and Evil. 『回り出す歯車』
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―――生き写し。
高藤綾女が口にしたその言葉を、疑うだけの理由が見つからない。
それほどまでに、写真の男は酷似していた。
髪の色、目の色、その姿形や表情までもが、クローンさながらにトレースされている。気味の悪い話だが、ここまで似ていては否定の仕様がない。
明かされた事実を飲み込むと、背筋を這い回っていた寒気が嘘のように消え去った。そうとすれば、高藤がなぜ俺に狙いを定めたのかにも説明がつく。
「―――それは、20年ほど前の写真よ。写っている女は、大学時代の私。そして」
細い指で俺の髪を梳いた高藤は、息がかかるほどの距離で妖しく笑った。
「隣にいるのが、“國佐田壮士”。私の―――“恋人だった男”よ」
その名を耳にした瞬間、脳裏にやつれた母の面影がまざまざと蘇った。それに引きずられるようにして、幼い俺を罵倒する統城真一―――父の怒声までもが呼び起される。
俺は、自分の中で確実にすべての点と線が結ばれていくのを感じていた。
國佐田壮士。
長年懐いてきたひとつの疑惑は、どこを洗っても出てこなかった男の名と、たった一枚の写真でいとも容易く解けた。
「聞き覚えがあるって顔をしているわね。統城真一は、彼の名を口にしたことがあったの?」
明確な答えを避けて目を伏せる。高藤はそれを肯定と捉えたらしい。彼女は「本当に愚かな男」と呆れたように吐き捨てて天井を仰いだ。
「それで合点がいったわ。私と出会う以前から、貴方には自分の父親に対して強い不信を募らせるだけの理由があったのね。でも、確証が得られなかった。だから、私の持ちかけた取引に、その場であっさりと従った。―――文字通り、身を挺してみせたというわけね」
「……そんな殊勝なものではありませんよ」
俺の返答に、高藤は微苦笑した。
「その美しい顔も身体も、貴方にとっては道具にすぎない? それほどまでに自分を追い込んで、貴方は何をしようとしているの?」
「―――それは、貴女のお話次第です」
「もう見当はついているでしょう。その写真と、國佐田壮士の名。それらが意味するものは、ひとつしかないわ。そしてそれは、貴方が知りたがっている母親の死の真相と、統城真一の過去に繋がる唯一の手掛かりよ」
きっぱりとそう言い切って、高藤は写真を俺の掌に滑り込ませた。持って行け、ということだろう。
写真に写る男の顔に視線を落とし、俺はゆっくりと立ち上がった。嫣然と微笑む彼女に近づき、分かりきった問いを投げかける。
「―――そんなに似ていますか」
全身を這うような視線が絡みつく。
そうして俺をくまなく見定めた高藤は、やがて艶めかしい息をついた。
「……ええ。そっくりよ。今の貴方は、“あの頃の壮士そのまま”ね」
懐かしさを滲ませた声でそう言った高藤は、ごく間近で俺を仰ぎ見た。彼女の冷たい掌が俺の両頬を包み込む。
「さっき玄関で貴方を迎えた時、一瞬心臓が止まるかと思ったわ。あまりの恐ろしさに震えたくらいよ。だってそうでしょう? かつて愛した人と同じ顔をした男が、目の前にいたんだもの」
不意に引き寄せられ、やんわりと口唇が重ねられた。愛おしむように触れては放れる薄く形の良いその朱唇が、震える声で囁く。
「その目も髪も、声や口唇の冷たささえも、まさに生き写しだわ。数奇な運命ね、ダイ。貴方の不幸は、壮士を父として生まれてきたことよ。貴方さえ生まれてこなければ、誰も苦しまずに済んだかもしれない」
もう何となく耳にしてきた言葉が、また呪いのように紡がれた。
俺の出生を否定したがる人間は、どうしてこうも多いのか、と他人事のように嗤う。
先刻、繭美によってつけられた噛み傷を舌先でなぞった高藤が、喉の奥で低く笑った。開いた傷口からじわじわと口内に鉄の味が広がるのを感じながら、俺は彼女の肩を掴んで身を離した。
「全て、貴女の目論見通りだったというわけですか」
「―――そうよ」
あっさりと頷いて、高藤は薄く笑った。
「本来なら、この件は生涯私の胸の内だけに留めておくつもりだったの。わざわざ出向いてまでお話する義理などないしね。でも、3年前のあの日、貴方が現れた。このホテルのレストランで、“統城玲”に連れられた貴方を見た瞬間、はっきりと確信したわ。貴方は、“壮士とあの女の息子”だと。それと同時に、酷く興味を惹かれた。だから、私は統城玲の部屋を訪ね、自殺した姉の過去を知りたくはないかと話を持ちかけた。彼女は目の色を変えて飛びつき、その場で破格の交渉を打ち出してきたわ。どれも魅力的な内容だったけれど、丁重にお断りさせて頂いたの。その代わり、彼女の甥である貴方になら、私の知っていることを全てお話してもいいと提案したのよ」
高藤の眼の奥に、憂愁を帯びた光が揺らめいた。名目し難いその色は、いかようにもその姿を変え、仄暗く輝いている。
「実際に言葉を交わしてみて驚いたわ。ただ壮士に似ているだけの少年だろうと思っていたのに、貴方は16歳とは思えないほど秀麗で、そして英明過ぎた。憎々しいほどにね。だから、情報提供を引き換えに、羞辱を強いることにしたの。壮士とそっくりなその顔が、壮士が私を裏切ってまで愛した女の息子が、苦悶する様を見るのも悪くはないと思い直したのよ」
静かに目を伏せた高藤は、肩をゆすって自嘲気味に笑う。
「貴方は馬鹿な女だと思っているのでしょうね。まったくその通りよ。でも、私は満足しているの。互いの愛を大義名分に、多くの人を不幸と絶望に陥れたふたりの息子が、その愛から一番程遠い男娼のような行為を私に強要され、甘受を余儀なくされたんですもの」
恍惚とした口調で語る高藤は、いつになく饒舌だった。
その内容からするに、俺を介することで、俺に似たかつての恋人に復讐したつもりでいるのかとも思ったが、馬鹿だと己を卑下するあたり、どうやらそれだけでもないらしい。
彼女の考えが読めなかった。底知れぬ憎悪を感じる気もするが、どこか諦観しているようでもある。
「貴方がどう思おうと、それは問題ではないのよ。集めさせたお金にしたって、貴方と同様、私にとってもただの紙切れ。私が望んだのは、貴方が私の持つ情報欲しさに、宛がわれた女に身体を差し出したという事実だけよ。貴方のような高貴の出にとって、女と寝て対価を得るだなんて品位のかけらもない行為は、もっとも嫌悪するところでしょうにね。それでも貴方は忍従し、私の言いつけどおり情夫に徹してみせた。そんな貴方の姿は、私にある種の充足感を与えてくれたわ。心を打たれたと言ってもいいわね。だから、嘘偽りのない、愚かな女の企みを告白しているのよ」
今更心中をさらけ出すことに、何の意味があるというのか。
俺とて、高藤が何を思い、何を得ようと興味はない。だが、厄介なことに、國佐田壮士という人物に纏わる人間を探し出せるかどうかには甚だ疑問が残る。情報源が限られているのであれば、その男と旧知の仲であったという彼女からできる限り話を引き出すのが得策だと思えた。
「―――写真の人物は、今どこに?」
あえてストレートに切り込むと、高藤は表情を曇らせて緩く首を振った。
「残念ながら、壮士の消息は不明よ。でも、統城の人間なら何か知っているかもしれないわね。調べてみるといいわ」
「……ええ」
一応の同意をして、口を噤んだ。
調べるだけ無駄だ。
彼女に言われるまでもなく、既に手は尽くしていた。しかし、どこを洗っても“壮士”の名すら引っかかってこなかったのだ。
本家の膨大なデータベースにも、それらしき該当者はいなかった。跡目である玲さんすら心当たりがないという。まさにお手上げだった。
「何故貴女は、統城真一や母のことをご存知なのですか」
ふたつ目の疑問を投げかけると、高藤は心得ていたかのように頷いてみせる。
足を組んで隣に腰掛けた彼女は暫し思巡し、話せば長くなるわ、と前置いて徐に口を開いた。
「当時、壮士は留学を控えていたの。彼は周囲に将来を有望視され、本人もそれに答えるだけの努力と才能を持ち合わせたバイオリン奏者だった。ところが、彼は何の前触れもなく突然失踪してしまったの。私はその原因を調べた。でも、壮士は親を早くに亡くし、他に肉親と呼べる人もおらず、親しい友人も少ない人でね。私では、彼の足取りさえも掴めなかった。諦めかけていたその時よ。失踪直前まで貴方の母親、“統城都生”の個人レッスンを請け負っていたことが判明したのは」
「……母の?」
思わず聞き返した俺に、彼女はゆっくりと頷いた。
「私はすぐに統城の本家へ出向き、都生に会って事実を確認しようとしたわ。でも、取り次いでさえもらえなかった。壮士の名を出しても、そのような人物は存じ上げておりませんの一点張りで。……不可解よね。壮士は確かに統城本家に出入りしていたはずなのに。私は何とか手がかりを得るために、すぐに口を割りそうな使用人に近づいて買収したわ。そして知ったのは、壮士と本家の長女・都生が恋仲だったこと、その都生が、傍流の統城真一と結納を交わしたという意外な事実だったの」
俺の知らない母の過去。その一部が、高藤の言葉で浮き彫りにされていく。
語られた内容から推測するに、母は内通が露見したことで想い人と引き離され、一族の認めた男との結婚話を強いられたのだろう。
本家に生まれた嫡子には、個人としての自由など無きに等しい。
特に長子は家のため、延いては一族のために有益な家柄の人間との結婚が義務付けられている。
恋仲だったとはいえ、どこの誰とも知れぬ國佐田壮士では、長女である母の相手には相応しくないと判断されるのも至極当然だった。
しかし、解せないのは、なぜ母の結婚相手に選び出された男が統城真一だったのか、だ。
統城本家の長女ともなれば引く手数多だ。国内外の有力者から立候補があったとしても不思議ではない。統城真一のような傍流の小者など、通常なら候補にも加えられないだろう。何か裏があるとしか思えない。
「その使用人は都生の事を喋っただけで、壮士の行方までは分からないと言っていたわ。結局、どれだけ手を尽くしても、それ以上の情報は得られなかった。そこで私は、統城真一に目をつけた。彼に近づいて、それとなく壮士のことを探っていたの。すると、真一と都生の間には、既に幼い息子がいることが分かった。でも、計算が合わないのよ。当時まだ18歳だった箱入り娘の都生が、壮士と真一の両方を手玉に取るような女だとは思えない。妊娠の時期からしても、壮士の子としか思えなかった。それを確かめる術はなかったけれど、貴方に会って確信に変わったわ。真一が、息子であるはずの貴方を憎み続けていた理由もね」
―――壮士。
精神を病んだ母が、何度も愛おしげにその名を口にしていたことを思い出す。錯乱状態の統城真一もまた、幾度となく喚いた名だった。やはりその男こそが、全てを繋げる鍵となる人物らしい。
しかし、当の本人が依然として行方不明である以上、直接会って確かめることは不可能に近い。肉親もいないとなれば、尚更困難を極めるだろう。
「……彼の最後の足取りは?」
「20年前の11月10日、シャルル・ド・ゴールで入国手続きをした記録が残されていたわ。それ以降は消息不明。もう消滅と言った方が正しいかもしれないわね」
世間一般に知られていないだけで、行方不明になっている人間は国内外を問わず意外に多い。フランスでの情報がそれだけでは、あちらの政府に捜索依頼を出していたとしても発見は難しいだろう。しかも、20年もの間、これといった進展がないのだ。事故や事件に巻き込まれた可能性も十分に考えられる。そうなれば、生存自体にも疑問が生じる。國佐田壮士については、今後の成り行きを見守るほかなさそうだ。
「統城真一について、何かご存知ですか」
その名を口にした途端、高藤の美貌が不快に歪んだ。
「……気味の悪い男よ。あれは常軌を逸しているとしか表現の仕様がない。貴方の母親にしたって、あの男に自殺へ追い込まれたに違いないわ」
酷く確信めいた物言いだった。
彼女は自身の身体を抱くようにして、その声に強い嫌悪を滲ませ言葉を続ける。
「酔った勢いでしょうね。それまで知らぬ存ぜぬを貫き通していた真一が、一度だけ口を滑らせたことがあったの。“都生を奪った壮士は、万死に値する”と、まるで呪いのように何度も呟いていたわ。あの男は、貴方の父親が壮士だと最初から気付いていたようね。そうと知っていながら、貴方を自分の息子として手元に置き続けた。そこにどんな意味があるのかは分からないけれど、何か強烈なまでの執着と憎悪を感じたわ」
高藤の話が確かならば、俺の戸籍は初めから虚偽の申請で成り立っていたということだ。当然、現存する母のカルテや妊娠記録も信憑性が失われる。
どうりで似ていない訳だと苦笑いが漏れた。國佐田壮士の風貌さえ見れば、証拠などなくとも父親が誰であるか一目瞭然だ。
書類などいくらでも改ざんできる。分かっていたことだが、ここまで徹底されている虚構の出生にますます興味が湧いた。
「いずれにせよ、壮士、都生、真一を巡る一連の出来事の背景には、何か大きな力が働いているようね。どれを取っても、公になればそれこそ大変な騒動に発展するだけの出来事よ。にも係わらず、一切表沙汰になっていない。それどころか、跡目候補の統城玲が何も知らされていないとなると、統城一族の中枢が結託して口裏を合わせているとしか思えないわ。間違いなく、真一も何らかの形で関与しているでしょうね」
眷属の介入。その可能性には当初から注目してきた。とはいえ、おいそれと尻尾を出すような老獪どもではない。
一筋縄では行かぬその面々を思い浮かべただけで、途端に胸が悪くなった。あの男も物騒な連中と手を結んでくれたものだと心中で毒づいて、俺は残りの茶を飲み干した。
「部外者の私には、ここまでが限界よ。今、私が話したことは、どれも想像の域を出ないけれど、確かめてみる価値はあると思うわ」
「そのようですね」
どうやら事態の進展が望めそうだ。ここまで来ただけの甲斐があったな、と安堵の胸を撫で下ろす。
根拠がないとはいえ、高藤の推論は核心を突いている。
ただでさえ統城は離俗した特殊な一族だ。身内である俺でさえも把握していない事柄が多いというのに、統城とは無関係のさして権力もない資産家の娘が、よくもまあここまで調べ上げたものだと舌を巻く。
統城真一の異常性は、それなりの関係を結んだ者にしか見抜けはしない。涼しい顔をしてはいるが、あの男に取り入ったとなれば、彼女も相当手酷い扱いを受けたのだろう。
「貴女が買収したという、その使用人の名はご存知ですか」
「……確か、通いの板前で、島田平次と言ったかしら。かなりお金に困っている様子だったわね」
当時の従業員の記録は、既に確認済みだ。しかし、肝心のデータが抜け落ちているらしく、家内の出来事に係わりのありそうな人物の情報は残されていなかった。何者かの手によって意図的に隠蔽されたのだろう。その中には間違いなく、島田という下働きの板前も含まれているはずだ。 どの道、通いの板前では仕入れる情報も高が知れている。その名を聞いたところで、徒労に終わるだろう事は容易に想像がついた。ただ、万が一ということもある。
ともかく、高藤から得た新たな情報を元に、一から洗い直す必要がありそうだ。
「―――以上が約束の報酬よ。これで契約は終了ね。当初の誓約では、これまでの事は全て忘れ、互いに元の他人に戻る……だったかしら?」
「ええ。それで結構です。ただし、守って頂けない場合はそれ相応の覚悟をして頂くことになりますが」
「……愚問ね。あの統城玲を相手に争うほど、私も捨て身にはなれないわ」
失笑した高藤は、目を眇めて窺うように俺を見た。
「……次に会う時は、貴方はもう雲の上の人になっているのかしら?」
向けられた含みのある科白に、苦笑が込み上げる。目を伏せるだけの答えを返して席を立った。
俺の先行きがどうであれ、高藤と俺では本来の立ち位置が違いすぎる。今後はこうして言葉を交わす機会もないだろう。
「―――ねぇ、ダイ。貴方はこれから、どんな女を愛するのでしょうね」
僅かに眉を顰めた俺に視線を止めながら、彼女は美しい口唇に微かな自嘲を浮かべた。
「壮士を愛し、愛された頃の私は、とても幸せだったわ。あれほど人を愛し、ただひとりに焦がれることは二度となかった。愚かな私は、きっと死ぬまで壮士への愛僧に囚われたままよ。でも、それも悪くないと思っているの。貴方にはまだ分からないでしょうけれどね」
どこか愁いを帯びた眼差しが俺を映して揺れている。
20年という歳月にも風化されぬことのない未練を綴る彼女の声は、いっそ潔い響きで俺の胸を打った。
「確かに、貴方は聡明で怜悧よ。でも、まだ若い。だから、自分の身体すら目的を果たすための手段としか捉えられない。貴方は、心の底から人を愛するということを知らないのね。己のすべてをかけて愛した人に裏切られる痛みを知らない。それは、理屈や理性などで推し計れはしないものよ。私は、壮士を愛して知ったわ。憎しみというだけでは足りない、もっと錯綜とした感情を。そして、どれだけ探求しようと、その真理を知り得る日など永遠に来ないこともね」
だからこそ、彼女は今も想い続けているというのだろうか。
忘れることも叶わぬなら、どれだけその形を歪ませようとも、せめて心のままに愛した男を想い続けようとしているのだろうか。
花盛りを過ぎてもなお美しい高藤の悟り顔に、何故か昨夜見た志唯の泣き顔が重なった。
この胸に縋りつき、悲痛にちいさな身を震わせ涙を流していた。裏切りを許せず、それでもまだ愛を捨てきれないと嘆く志唯の言葉が、耳の奥で木霊する。
この高藤綾女もまた、そんな激しい情熱を秘めた女のひとりだというのだろうか。
「―――お元気で」
「……ええ。貴方も」
短い挨拶を交わして彼女に背を向けた俺は、その部屋を後にした。
エレベーターのボタンに手を伸ばし、ふと込み上げてくる奇妙な実感に思わず自嘲する。
やはり知らないのだ、俺は。高藤綾女が語った愛の歪みも、志唯が身を焦がし続ける恋の痛みも何ひとつとして。
遠い日に切り捨てたはずの感傷が疼く。焦燥は俺の奥底で日に日にその勢いを増すばかりだった。
最優先事項は、3年を費やしてまで手に入れた情報の裏づけであり、それに纏わる一連の真相だ。場合によっては、國佐田壮士の所在も何とかつきとめねばならないだろう。自分探しなどにかまけている暇などないというのに、どうしても芽吹いた疑問を払拭できないでいる。
いつか、彼女達の語る相愛の価値を知る時が来るのだろうか。それを知れば、欠け落ちた感情を、俺に足らざる物を補うことができるのだろうか。
らしくないなとひとりごちて、開いたドアに滑り込んだ。
二の足を踏もうとも、時は無常にその秒針を刻む。ならば、進むまでだ。その先に、どんな答えが舞っていようと、俺にはまだ進むだけの理由がある。感傷に浸るのは、すべてを成し終えた後でいい。
メイン玄関へと降り立った俺は、素早く周囲に視線を配った。予定通りに事を運ぶためにも、できるだけ顔見知りとの遭遇は避けたい。
ところが、駐車場に向かおうと身を翻した俺は、暫しその場で瞠目する羽目になった。
こちらの様子は意にも介さず、ソファからゆっくりと立ち上がった人物が、暢気にも右手を上げて合図を送っている。
「―――おかえり。待っとったで、この色男」
そのにやけ面と、脇に立つ存在を見とめて思わず眉間を押さえた。
重い溜息を吐く俺を、勝気な両の瞳に強い光を宿した女が睨みつけている。勇ましいほどに、憤然と―――。
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