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【Dead or Alive ?】
W Beyond Good and Evil. 『吊るされた男』
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「いっやあ〜、ごめんなダイ君! 君が車出してるやろうな〜思て、僕、自分の車置いてきてしもてん」
後部座席から身を乗り出した神崎が、顔の前で大袈裟に両手を合わせた。その仕草と相反するあっけらかんとした口調はおよそ謝罪には程遠く、耳障りなほどに軽い。わざと置いてきたのだろうが、どうせ誤魔化すなら少しは趣向を凝らして欲しいものだと考えて、即座にこの男にそれを望むだけ無駄だった事を思い出す。「そうですか」とだけ返して、前を行く車の列を眺めた。
目的地へと続く幹線道路は、既に混雑の兆しを見せていた。どのルートを辿っても到着までには結構な時間を食うというのに、この上カーナビから事故情報まで流れてくる。今日はつくづく運に見放されているらしい。決して渋滞のせいだけではない苛立ちを少しでも紛らわせようと、薄く窓を開けて咥えた煙草に火をつけた。
ホテルのメイン玄関で俺を待ち受けていたのは、まだオアフにいるとばかり思っていた神崎だった。聞けば今朝一番の便で玲さんと帰国したらしく、彼女をホテルに送り届けたその足で俺を迎えに出たのだという。
神崎を乗せて玲さんの元に向かう事にこれといって問題はない。多少意表を突かれはしたが、どの道、直に会って今後の見通しを立てる心積もりだった。腑に落ちないのは、なぜ相談の席に向かうこの車内に、何の脈絡もない部外者が乗り合わせているのか、だ。
「別にタクシーでも良かったんやけど、可愛いお嬢さんに乗り心地の悪いシート座らすんも気の毒やん?」
「……構いませんが、先に彼女を送った方がいいのでは?」
「ん? ああ、まだ送らんでもええねん」
へらへらと愛想笑いを張り付かせ、神崎は助手席で沈黙している女の顔を覗き込んだ。
「このまま一緒に乗せてったって。彼女はこれから玲さんと一緒にご飯食べる約束してんねんて。なー、蘭ちゃん!」
神崎に笑みを向けられた女――初芝 蘭――は、不機嫌な表情でこくりと頷く。その様子に苦笑する神崎と、ルームミラー越しに視線がかち合った。
「―――あ、そうそう。ダイ君を待ってる間に、ロビーであの女と会ったわ。ええっと……確か、繭美って名前やったっけ?」
「……それが、何か?」
今ふと思い出したと言わんばかりの口調を装ってはいるが、神崎がこちらの反応を窺って言葉を選んでいるのは明らかだった。俺の個人的な事情を揶揄するのが相当お好きらしい。断続的に吐き出していた紫煙に、いよいよ陰鬱な溜息が混じった。
「とんでもない女やなぁ。年下相手に容赦ないんやもん。僕、びっくりして口開いてもうたわ」
話の意図が読めずミラー越しにちらと視線を送ると、神崎はとってつけたようなしたり顔で話を続けた。
「えらい怒ってエレベーターから降りてきたと思ったら、いきなり蘭ちゃんの前に歩いてきてな。こう言いよってん」
「―――“あなた、もう彼とは寝たの?”」
それまで沈黙に徹していた助手席の蘭が、急に声を荒げて神崎の科白を代弁した。あまりの内容に思わず目を覆いたくなる俺を他所に、彼女は酷く興奮した様子で捲くし立てる。
「思わず聞き返したわよ! 誰のことですかって! そしたらあの女、『ダイに決まってるでしょ?』だって! 人の事じろじろ見たかと思えば、鼻で笑った挙句に思いっきり見下して。おまけに諦めろだの、あたしみたいな発展途上の小娘じゃ相手にもならないだの、言葉巧みに散々罵ってくれたわよ。気分悪いったらないわ。なんなのあの女はっ! あんたの元カノっ?!」
「……前に話したと思うが?」
「―――へえーっ! やっぱりそういう関係の女だったわけっ! あんたは彼女じゃなくても、平気でそういう事できるんだ! しかもあんな女とっ!」
「だったら何だ。あの話は撤回するか? お前が退くというなら、俺は一向に構わないが」
「―――するわけないでしょ! これくらいでへこたれるくらいなら、最初からあんたなんか好きにならないわよっ!」
とうとう堪え兼ねたのだろう神崎が、天井を仰いで派手に噴出した。そこでやっと我に返ったらしい蘭が、頬を紅く染めてシートにちいさく縮こまる。
「ええ調子や、蘭ちゃん! それくらいの気構えないと、この男はびくともせんで! 僕の事は気にせんでええから、もっとぐいぐいやったり!」
大音声ではやし立てられ、蘭の頬にますます赤みが差す。下を向いてはいるが、長い髪が纏められているせいで横顔からでもその複雑な表情が十分に窺い知れた。彼女が短気だと知っていて拍車をかけている俺にも非はあるが、一度忠告してやったにもかかわらず、頭に血が上ると周りの目を忘れる習癖は直せていないらしい。
ひとしきり大笑いして気が済んだのか、神崎は目尻に浮かぶ涙を大袈裟に拭いながら居住まいを正した。
「心配でんでも僕が釘さしといたし、もう顔見せることもないやろ」
「……あ、そういえば」
すると、徐に顔を上げた蘭が後部座席を振り返った。
「右京さん、何言ったんですか? あの人、急に真っ青になって逃げてっちゃいましたけど?」
「……ああ、キレた蘭ちゃんが、『いい歳して恥ずかしくないの!』 とか、『相手にされてないのはあんたの方よ、オバサン!』 とか、散々あの女に噛み付いて仕返しした後のこと?」
目を剥く俺と視線が合った瞬間、びくりと肩を引き攣らせた蘭が、慌ててヘッドレストに巻きついている神崎の腕を掴んだ。
「―――それは今わざわざ言わなくてもっ!」
「何で? 事実やん」
「じっ、……事実です、けど……」
真顔で切り返されて意気消沈したのか、がくりと頭を垂れた蘭は所在なさげにシートに身を埋めた。その様子に目を細めた神崎が、彼女の髪をゆるゆると撫でながら口を開いた。
「ごめんごめん。実を言うとあの女な、近々格上の大金持ちと結婚するらしいわ。せやから、忠告してあげてん。破談にされたくなかったら、おとなしゅうしとった方がええでーってな」
酷く驚いた様子で、蘭は後ろを振り返った。
「破談……って、そんな事できるんですか?」
「うん。電話一本で事足りる」
「そ、そんな簡単に?」
「無理やと思うやろ? せやけど、あの人にはそれが出来るねん」
神崎に視線を留めたまま暫し考え込んでいた蘭は、やや躊躇しながらその名を口にした。
「あの人って……、レイさんのことですか?」
「―――神崎さん」
牽制の意味を込めて今にも頷こうとする神崎に低く呼びかける。しかし彼は、こちらの意図にはっきりと気付いていながら、柳に風と受け流した。
「―――そうや」
平然と肯定する神崎に、今度こそ本当に目を覆いたい心境だった。
蘭が玲さんについて何も知らないのであれば、それに越した事はない。わざわざ知らせるだけの理由がないというのに、神崎は一体何を話そうというのか。ミラー越しに鋭く一瞥すると、彼は薄笑いを返してきた。
「そんな怖い顔せんといてーな。これは玲さんの意向や。それなら君も文句ないやろ?」
眉を顰める俺を一笑して、神崎は意気揚々と蘭に向き直った。
「どっかで名前くらい聞いててもおかしくないはずなんやけど、蘭ちゃんはホンマに何も知らんねんなぁ」
「……すいません、あたし……」
申し訳なさげに低頭する蘭を「かまへんよ」と気遣いつつ、首を捻って軽く唸る。
「何から話したらええかなぁ……、あ、レイさんとダイ君の関係はもう聞いた?」
「まだ何も……」
「ほんならそこから話そか。すっかり誤解しとったみたいやけど、ふたりは色恋沙汰になりようがないねん。理由は簡単。血縁やからや」
「……えっ?」
驚きを隠せない様子の蘭に満足したのか、神崎はにんまりと笑いながら話を続けた。
「レイさんは、ダイ君のお母さんの実妹さん。つまり、ダイ君はレイさんの甥っ子や。やたらと親密なんも分かるやろ?」
噛み砕かれた説明を受けて繰り返し頷いた蘭は、そのまま俺の横顔を凝視し始めた。容姿にレイさんとの共通点を探ろうとしているのだろうが、残念なことに俺と彼女はそれほど似ていない。外見だけでそうと判別することなど土台無理な話だ。
「ダイ君のお母さんは“統城総本家”の長女……要するに跡取り娘さんやったんやけど、早くに亡くならはった。次いで、本家の跡目候補に上がってるのが、次女である玲さんなんよ」
「……えっと、ごめんなさい。統城の本家って?」
茫然と聞き返され虚を衝かれていた神崎は、やがて参ったと苦笑を漏らした。
「あー、そっか。それも知らんか。まぁ、しゃーないわなぁ。蘭ちゃんこっちの業界には完全に無関係で育てられてるみたいやし。よっしゃ。ほな、その統城一族を代表して、ダイ君に説明してもらおか」
決まりの悪さに俯く蘭の頭を撫でて、神崎は当然とでも言うように話を投げた。閉口する俺に、統城玲の意向やで、と目で強く念を押してくる。更には真横から蘭の食い入るような視線を向けられ、俺は半ば諦めるような心持で口を開いた。
「元々統城は京都に興った古い家系で、総本家は俺たち統城一族の中心にあたる血族だ。東宮家は知っているか?」
「あ、うん。漣兄にちょっとだけ聞いたことがあるくらいだけど、確か日本を代表する名家だって」
「……『東に東宮あらば、西に統城あり』。両家は政財界を二分する存在と言われている。レイさん、つまり俺の叔母である統城 玲は、統城の血を束ねる総本家の正当な後継者にあたる人だ」
大まかな説明を終えると、視界の隅に写る蘭が唖然とした様子で固まっていた。彼女が驚くのも無理はない。普段の玲さんを思えば、せいぜい手広く飲食業を営む女性実業家あたりを想像していただろう。
「……そ、そんなに凄い人、だったんだ……」
「そうそう。気さくな別嬪さんやけど、日本の要人的存在や。何せ統城玲て言うたら、世界中どこ行っても顔の利くお人やからな」
大きく相槌を打って、神崎は完全に放心している蘭の手に自分のそれを重ね合わせた。
「あのな、蘭ちゃん。確かに玲さんはちょっと浮世離れした人やけど、遠慮せんと普通に接してあげて欲しいねん。そうやなぁ、親戚のお姉ちゃんやと思ってくれたらええわ」
「―――むっ! 無理です! いくらなんでもそれは……っ!」
「僕からのお願いや。何せ、実の甥っ子がこの通り“無愛想”で、“尊大”で、“可愛げのない男”やから、随分と寂しい思いしてはるんよ。玲さんは蘭ちゃんの事気に入ってるし、女同士仲良くしてあげてーな」
小首を傾げて甘い笑みを向ける神崎を見つめていた蘭は、しばらく逡巡した後「あたしでよければ」と控えめに頷いた。
その後もふたりの他愛無いやり取りは続き、目的地に到着するまで途切れることはなかった。いつもよりも更に饒舌な神崎はあれこれと話題を広げて蘭を喜ばせ、車をホテルの玄関ポーチに寄せる頃には、奇妙な連帯感すら漂わせ始めたほどだった。
停車するなり颯爽と後部座席を出た神崎は、すぐさま助手席側に回り込んで仰々しくドアを開ける。促された蘭が礼を言って降車すると、神崎は身を屈めて俺に視線を合わせてきた。
「ダイくんはどないするん? このまま車預けて一緒に来るか?」
「……いえ。後ほど伺います」
「そうか。ほな、蘭ちゃんと先行くで」
陽気に右手を上げた神崎が蘭を連れてホテルの中へと消えていくのを見届けて、地下駐車場へと走り出りだした。
空きを見つけて滑り込み、エンジンを切ってシートに背を預ける。咥えた煙草の先から昇る煙を見上げながら、俺は漠然とした気懸かりを持て余していた。
玲さんが蘭に対して好意的な印象を抱いている事は知っている。彼女との接触が統城玲の意向だとすればこちらは従わざるを得ないが、今は時期が時期だけに些か軽率な振る舞いに思えてならなかった。何か考えあっての事だとは思うが、蘭もまた初芝家のひとり娘。名のある家の令嬢が統城の中枢人物にかかわれば、善からぬ誤解を生みかねない。後々面倒事に巻き込まれる可能性もあるだけに、そう安穏ともしていられなかった。はたして、どこまでが玲さん自身の意思なのかにも疑問が残る。やはり蘭との接触は避けた方が懸命だ。神崎の動向にも、これまで以上に注意を払っておくべきだろうと結論付け、燃え尽きそうな煙草を揉み消した。
取り留めない思考を遮断して車外に出ようとした瞬間、ふと数日前の出来事が脳裏を掠めた。ダッシュボードに手を伸ばし、中からちいさなピアスを拾いあげる。オアフのホテルで拾った蘭の落し物だ。返す機会がなければ暇を見つけて美愛に言付けるつもりだったが、思いかけずまた顔を合わす羽目になるとは。これも何かの縁だろうか。
透明な輝きを放って揺れるダイヤの粒を懐に収め、薄暗い空間に足を踏み出した。
「―――ダイ!」
インターホンを鳴らすなり俺を出迎えたのは、スリップドレス姿のまま駆け寄ってきた玲さんの抱擁だった。勢いよく飛びつかれ慌ててその細腰を支えると、呆れ顔の神崎が後ろからガウンを手に追いかけてくる。俺の首に腕を回してしっかりと抱きついた玲さんは、ほっと息をつくと頬に触れるだけのキスを残して身を離した。
「ほら、またそんな格好で! 蘭ちゃんがびっくりしてるやんか」
「―――しょうがないでしょう? ずっと気が気じゃなかったんだから。早くダイの顔を見て安心したかったのよ」
拗ねたように言ってガウンに袖を通した玲さんは、ソファで呆気に取られている蘭の隣に腰を下ろした。
「ごめんなぁ、蘭ちゃん。この人、育ちが海の向こうやから、スキンシップが無駄に多いねん」
「あら。それを言うならダイだって同じよねぇ」
「なんでやの。ダイ君が向こうにおったんは確か5年くらいやろ? 貴女の場合、人生の三分の二以上が向こうやんか」
「やあね、歳がバレるじゃない。そもそも、当人が嫌がってないんだから問題ないわ。蘭ちゃんの誤解も解けたみたいだし。これで、いつキスシーンを見られても大丈夫ね」
「―――こら! 自分の甥っ子に何してんの!」
臆面もなく肩を窄めてみせた玲さんは、苦笑する蘭に微笑みかけると近くにあった電話に手を伸ばした。ふた言ほど言葉を交わして受話器を下ろし、緩やかな動作で足を組みかえる。俺を見る瞳が笑っていた。
「……気に入らないって顔をしてるわね、ダイ」
「いえ。ただ、今は用心して頂くべきだとは思いますが」
「―――そうね。確かにダイの言う通りよ。でも、残念な事にそうもいかなくなったの」
憂鬱な表情で溜息をついた玲さんは、徐に窓の外に広がるビル郡に視線を投げた。
「どうやら長老たちも必死みたい。あっちこっちに犬がうろついててるわ。多分、どこかで見られていたのね。面倒なことになりそうだから、右京を出向かせたのよ。あたしの影響下にあると知らしめる為にもね」
思わず息を呑んで蘭を見やると、話の流れを読んでいたのか、神崎が手近な雑誌を開いて蘭の注意を引きつけていた。見開きのページを食い入るように眺める彼女には、幸いにもこちらの話は聞こえていないようだ。神崎のかける言葉に声を上げて笑うその横顔を見つめながら、俺は己の失態を悔いた。
本人に悟られないよう伏せてはいるが、話の主体は他でもない、蘭のことだ。俺に接触する蘭の存在に目をつけた統城の飼い犬が本家の老獪共に内報し、その後も彼女に監視の目を向けているらしかった。
老獪共は無益を好まない連中だ。どこの誰ともつかぬ女ならば度外視していただろうが、蘭が初芝家の娘である事を知って感興をそそられたのだろう。彼女を"統城にとって大いに利用価値がある人物"として認識し、取り付く機会を探るつもりでいるのだ。
間違いなく俺のミスだった。本家の人間が目を光らせているこの時期に、不用意に蘭を近づかせるべきではなかった。
「今頃は親族会議の真っ最中よ。先に手を打ってはいるけど、だからって安心もしていられないわね」
「迂闊でした。申し訳ありません」
「貴方が謝る必要はないわ。あたしにも落ち度はあるもの。ただ、彼女に何かあったらそれこそ大問題よ。あたしも出来る限りのことはするけど、貴方の協力は必要不可欠よ。ほとぼりがさめるまでは十分気を配ってあげてね」
「―――はい」
俺が首肯すると同時に、インターフォンが鳴り響いた。いち早く反応した神崎が玄関に向かい、ほどなくしてワゴンを押したボーイが姿を見せる。次々と並べられる料理に目を輝かせた玲さんは、軽やかな足取りでテーブルに向かった。
「今日は楽しい食事になりそうで嬉しいわ」
傍らにいる蘭の肩を抱くその表情は、随分と寛いだ様子だ。
統城玲の日常は多忙を極める。当主の代理として国外を飛び回り、各国のビジネスパートナーとの友好関係を保ちながら、新しいチャンスの種を蒔く。人脈の維持と拡大。それが、統城本家に生まれた人間として課せられている彼女の主な責務だった。海外生活の長い彼女は外国文化に造詣が深く、言葉の壁も無きに等しい。長年培ってきたあらゆる背景を駆使して、彼女は多くの海外シェアを有する統城の外交面を担っているのだ。重要なポジションなだけに責任も大きく、肉体、精神ともにかなりの疲労を伴う。少しでも身体を休めて欲しいと思う反面、気が置けない触れ合いを求める気持ちも分からないでもなかった。
「ああ、蘭ちゃんはここよ。……ダイ、こっちに来て」
いち早く腰掛けて正面の席を指差している玲さんに曖昧な笑みを返すと、「嫌とは言わせないわよ」と目を細めて凄まれた。
日常の大半を統城の顔としての責務に費やす玲さんは、当然のこと身近な人間と時間を共有する機会が極端に少ない。そのせいか、彼女は事ある毎にこうして俺に同席を望む。食事だけではなく貴重な休日を削ってまで、俺と過ごす時間を作ろうとするのだった。肉親と疎遠な彼女にとっての唯一の慰みなのか、それとも団欒といったものに縁の薄い甥を気遣ってくれているのか。どちらにせよ、傍に侍る事で彼女の憂いが和らぐのであれば、いくらでも従うつもりでいた。
期待の込められた視線に応えるべく、さも渋々といった態度で腰を上げてみせる。俺を迎え入れた彼女は、予想通り満面の笑みだった。
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